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6 背負い込んだモノ

「おめでとう、君たちの勝ちだ」
 優がそう言って宝珠を圭一郎に手渡す。
「今日からこの宝珠は君たちのものだ。二人で協力して、妖魔から人々を守ってくれ」
「は、はは……」
 圭一郎はひきつった笑みを浮かべ、宝珠を受け取った。
(なんでこんなことになったんだ)
 考えるまでもない。流が倒し損ねた妖魔につい手を出してしまったのは自分だ。
 困った人を放っておけないために、時にわざわざ損な役目を負ってしまいやすい。そんな自分の性格はわかっていたつもりだったのだが。
「流もそれでいいな?」
「わかったよ、パパ」
(えっ?)
 流はあっさりと負けを認める。あれほどまでに当主になりたがっていたのに、圭一郎には不思議に思えてならない。
 流は続けた。
「身体張って人助けなんて地道なまね、やっぱり僕には似合わないしね。圭一郎たちがわざわざやってくれるっていうんなら、僕は止める気はないよ」
(止めていい。ていうか止めろ)
 流のわけのわからない自信にあきれつつ、圭一郎は心の中でつっこむ。
 おそらく、流は理解したのだ。宝珠家の当主になると痛い目にあうこともある、ということを。
 そして二人は、その役目を自分たちの手で引き受けてしまったのだ。
 優が再び二人に向かう。
「市役所への届け出と、警察の詳細データベースにアクセスするIDの申請は、私がやっておこう。それから妖魔の特徴については、少しずつ教えていくつもりだ。美鈴家の……凛ちゃんか、彼女にも話を聞くといいだろうね」
「……はい」
 圭一郎は観念した。こうなった以上はしかたがない。義務があるわけではないのだから、できる範囲でちょっと退治でもやっていれば、まあなんとかなるだろう。
 問題はむしろ、征二郎のほうだ。当主になれば、部活のバスケットボールを続けるわけにはいかなくなる。身長がとりたてて高いわけでもなく、不利な条件の中で全国大会に進むレギュラーを目指してがんばってきたのだが、ここで諦めてしまえるのだろうか。
 圭一郎は傍らの征二郎に目を向けた。そして、征二郎が意外にも平気な顔をしていることに気づく。
「?」
 驚いたまなざしを向ける圭一郎に征二郎が気づき、笑ってみせる。
「がんばろうな!」
「それでいいの?」
「まあな」
 征二郎はさばさばした表情で答える。
「やってみたら結構面白かったしさ」
「あ、そ、そういうものなんだ」
 圭一郎は他に返事のしようもなく、それだけ答えた。気を回しすぎるのはいつものことだったのだが、いつも気づくのはさんざん気をもんでからになる。
 ああだこうだと悩んでいたのは僕だけか、と、圭一郎は苦笑した。

 こうして宝珠家の当主は双子の高校生に引き継がれた。それは単なる世代交代に過ぎなかったが、妖魔が数を増しつつある中で決定的な役割を彼らが担っていくことになる、その始まりでもあった。

(第一話 終)

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