グラウンドからは運動部の掛け声とボールの音が響く。傾きかけた秋の夕日が校舎にやわらかな光を投げかける。
そんな、いつもの放課後。
校舎の裏手、部室の近くに小さな裏門がある。正門のあたりには帰宅する生徒たちの姿が見られるが、裏門を通る生徒はあまりいない。
その時も、人通りは途絶えていた。
夕日が照らす門のそばで、不意にひとつの影がどこからともなく現れる。
とん、と地面に降り立ったものは、小さい子どもの姿をしていた。
年のころは七歳ぐらい、古い絵巻物で見かけるような服装をしている。淡い色の髪を後ろでひとつに束ね、木賊の色目の水干に、紫裾濃の括り袴。
「……」
子どもは驚いたように大きな金色の目で周囲を見回していたが、ふと先のとがった耳をそばだてた。
「……でさぁ、ここだけの話なんだけどー」
「えー、なにそれー?」
話し声の方に、子どもは顔を向けた。二人連れの女子生徒が、部室棟をまわって裏門への道をやって来る。子どもは動きを止め、注意深く彼女たちの方をうかがう。
女子生徒たちは笑いさざめきながら、すぐ横を通り過ぎ、裏門から外に出て行った。子どもの姿にはまったく気づいていない。
子どもはじっと、彼女たちが門から出て行くのを見送った。
再び人の気配が途絶えると、こんどは少し背伸びをして顔を上に向け、風の匂いを嗅ぐようなしぐさをする。
奥の一角に目をやった時、その表情がぱっと明るくなった。
「あそこだ」
子どもはぱたぱたと、奥に向かって走り出した。