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SHI-KI

 バブルがはじけてこの国は「失われた十年」を過ごしてきたとか言うけれど、バブルって時代にはまだ物ごころついていなかったから、僕には実は、あんまりぴんと来ない。
 もっとさかのぼれば、高度経済成長期なんて時代もあったらしいけど、僕たちにとっては日本史で勉強することがらの一つにすぎない。
 経済とか成長神話とか、よくわからないけれど、わかっているのは、今がなんだかぴかぴかしているのにほの暗い時代だってことだ。
 生きていくのに困ることなんてないし、大概のものは手に入る。でもどこか空虚で、すがることのできる確かなものがない、そんな時代。夢とか未来とか、昔は力を持っていたらしいことばが力を失って、でも欲望だけはかき立てられ続けていて、その結果、行き場のない思いだけが満ちている時代。
 それが、僕たちの「今」なんだ。
 この半年あまりの間に僕たちが経験してきたこと。それは、こんな時代だからこそ経験できたことだったのかも知れない。

200X年3月 宝珠圭一郎

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