夢魔

第1章 夢の訪問者

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「君と同い年ぐらいの夢使い?」
 透の問いに、桜川先生は首をかしげた。
「じゃあ、十五、六歳ってことかい?」
「はい。あ、背も同じくらいでした」
「どんな顔?」
 透は少し考えてから答えた。
「女に人気ありそうな顔」
「あははは」
 透の表現がよほどおかしかったのか、先生は笑い出す。生来の陽気な性格のためか、自分の半分以下の年齢でしかない透の些細な冗談にもよく笑う。そこがこの先生の面白いところであった。冗談で言ったつもりはなかったのだが、透もつられて笑顔を見せる。「女に人気ありそうな」顔とはあまり形容できない容貌の男二人は、顔を見合わせて笑い続けた。
「僕の記憶にはないな」
 笑いがおさまると、先生はそう言った。笑っている間にも考えることは考えているらしい。
「去年、君が夢使いの勉強を始めた時、十代前半で夢使いの能力が現れるなんて珍しいって話題になったんだ。普通は十八、九歳だからね」
「そうでしたね」
 少なくとも透のまわりに同年代の夢使いがいないことは確かである。だからこそ彼は、同年代のあの少年に興味を抱いたのだ。
「でもそいつは、自分のいる場所がどこなのか、わかっていないような感じでしたね」
「ほう」
「随分きょろきょろしてたし、夢魔を倒した時も……」
 透はナイフと落ちた枝、そして夢魔の化身である木を見比べていた少年を思い浮かべた。
「それじゃあ、自分が夢使いだということに気づいていないのかも知れないね」
「ええ」
「一応他の人達にも聞いてみるけど、多分その子はアマチュアだよ」
「アマチュア?」 
「夢使いの能力を持っているのに、夢使いの仲間に入っていない人のこと。ほとんどの場合、自分の能力に気づいていないんだろうけどね」
「じゃあ、自分が夢使いだとわかってて、あえて仲間に入らない人もいるんですか?」
「たまにはね。でもそういう人は一匹狼っていうんだよ」
「なるほど」
 自分の能力に気づいていない夢使い。
 彼らを見つけ、「プロ」の夢使いとして夢魔退治の仲間に加わらせたいという願望を込めて、夢使い達は「アマチュア」と呼ぶ。誰でも初めはアマチュアなのだ。透自身も、十四の春に見始めた、妙にリアルな夢に戸惑った過去がある。思い切って家庭教師に来ていた大学生に相談したところ、その大学生が桜川先生を紹介してくれたのだ。
 あの少年が、夢使いの仲間になってくれたらどんなに心強いだろう。そう透は思っていた。同世代で親近感を抱いたというだけではない。自覚のないままに他人の夢の中に入り、しかも夢を喰らって強大になった夢魔を難なく倒してしまった少年に、透は大きな才能の輝きを感じ取っていたのだ。


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