夢魔
第10章 黒衣の夢魔
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「結局、薫さんはあなたを倒せなかったんですね?」
堤防の上をゆっくりと歩きながら、透が尋ねる。水面が夕日で朱色に輝いていた。夢の中とは思えない、美しい光景だった。
「……ええ。刺されはしたものの、消滅できなかった……。でもあれ以上、彼女を苦しめるわけにはいきませんでした。あれ以来、私は他の人間の夢に潜み、薫と出会うことのないように隠れて過ごしてきたんです」
ラグナは一旦言葉を切り、きらきらと輝く川面を見つめる。
透がどう言葉を返したものか迷っているうちに、ラグナの方が再び口を開いた。
「でも、それでよかったのかも知れません」
「?」
首をかしげる透に答えようとしてふっと口をつぐみ、ラグナは立ち止まる。
「……ここに連れて来たのは、あなたに会わせたい人がいたからです」
そう言ってラグナは川原を指さす。見ると、一人の少女が座り込んで川を見つめていた。
「あれは……!」
少女が振り向く。堤防の上の二人を見上げ、慌てたように立ち上がっている。
透は狼狽したように、少女とラグナの顔を交互に見比べる。
「まやかし……?」
「いいえ」
ラグナはあっさりと否定した。
「正真正銘の千秋さんです」
「千秋……?」
恐る恐る透が呼びかけると、透の前に駆け寄って来た少女――千秋はちょっとだけ笑ってうなずいた。
「どうして……」
「透兄ちゃん……」
透に問われるより早く、千秋が口を開く。
「私……殺されたの。粟飯原恵美に…」