「必要なのは真実じゃない。信じることのできる神話だ」


 作品中、一番気に入っている台詞。デューイの言葉です。なんかこう、デューイが「歴史に名を残す」存在になったのは、処刑台での演説のせいじゃなくてこの一言を言えたから、ってな気がします。
 人をだますよりはだまさない方がいいし、できるなら真実は明らかであった方がいい。だましていた勢力を追い払うために別の嘘を持ち出すのは、結局は同じことなんじゃないか。……とかまあ、そういう正論で勝負していたら、多分革命は成功しなかった。ユジーヌもガルトも読んでいたことだけれど、ややこしい「真実」を短時間で語っても、人々は動かないでしょう。 教団の支配から逃れるための、ベストではないにせよベターな「物語」を、彼は語ったわけです。
 彼が語った「物語」は、要するにイデオロギーです。そこからはみだしてしまう「真実」を隠蔽し、だからこそ受け入れられやすくなる。
 ただ、デューイはそのために、いないとわかっている神についての教義をまとめ、その信者の最高位に立たなければならなくなってしまいました。これは結構大変なことなんじゃないかと思います。
 いない神の名のもとに、神の意志を語る。人々は神に従っているのか、神の代理たる人間に従っているのか。その違いを、神が不在だと知っている者は自覚せざるを得ないわけですね。聖職者が偉いのは、本人が偉いんじゃなくて仕えている神様が偉いから。それはある意味当たり前のことなんですが、結構忘れられやすいことでもありますよね。
 とかまあ、そんなことを考えていたら、デューイとユジーヌをかけ合わせたような(足して2で割るよりもタチが悪い)キャラができました。常人にゃなかなか読めない彼の真意を、ランディをさらに態度でかくしたようなキャラが解読するのが「ベルサニア戦記」ってシリーズのひとつ「最後の契約」です。完結したんで宣伝。