「サイレント・ウィッシュ」

 新しい番外編のあとがき(本編ネタバレ)をこちらに書いておきます。なぜ今さらずっと前に完結させた話の番外編を書いたかというと、番外編の競作企画に出すにあたって、一番人に読んでもらいたい作品の番外編を出したかったから。別の番外編「救いを求める者たちへ」に登場する、デューイの元同僚が主人公です。「救い〜」で、ティア達ロルンはデューイに投降するわけですが、なぜそういう決断を下したのか、なぜその時ティアが”あの時現われたのが神かどうかは問題じゃない”ということを言ったのか、といった話になっています。

 教団に従ってきた暗殺者は市民の蜂起にすら加われなかったし、むろん誰も一言も口にはできなかったけれど、思うところはあった……かも知れない。暗殺者達の言葉にすらできない願い(これがタイトルの由来)もまた「ウドゥルグ」という記号の意味づけの変化を支えていたんでしょう。
  一方、本編ではあっさりと戦力の推移としてしか書いてないけれど、ロルンの戦力が減少するということは、ガルト達が手を下していたことなわけです。それはどんなに正当化したって人を殺すこと。それに彼らが気づいていなかったはずはない。奪う命と奪わない命、守る命と守らない命を分けなければならない制約は、ガルトにも課せられていたけれど、それに対して彼がどう臨んでいたのか。
 ……そんなあたりを書きたかったのでした。

 本編を読んでいない方にもわかるようにしなければならなかったために書かずじまいになりましたが、最初の予定では、ティアはガルトに出会った後、ユジーヌ司祭長の命令で反乱組織を観察することになっていました。種を渡すのは、監視する過程で何度も二人が会話を交わした後ということにしたかったんですが、本編を知らない人には冗長な状況説明が延々と続くだけなので、すっぱりまとめた次第です。
 ちなみに、暗殺者達に仕掛けられている「死ぬと屍鬼になる魔法」を、ガルトは感じ取ることができます。「ウドゥルグ」のシンボルが使われているもので。身を隠しているつもりの暗殺者達は、実はマーカーつきで動き回っていたことになるわけですね。

 本編を読んでいない人には「革命によって神の意味づけが変わりつつある島」 「伝えられてきた神と同じ姿を持つキーパーソンっぽいキャラ」が伝わればよいかな、と。しかしこれ、本編読んでない人にもわかるとは思うけど楽しめるかは微妙だなあ……。それ以前に本編だって読んで楽しいかどうかわからないしなあ。