バリュドー・レクファスさん

 おまけの「神なき宗教の発祥:ウドゥルグ伝説の真偽に関する一考察」という、ある意味強引なトンデモ論文の著者。本当は査読で落とされそうになっていて、指摘箇所を書き直せば掲載、というはずだったのだけれど、本人が死んでしまっていたために修正なしで掲載された、というもの。だから論文としての質はかなり低い仮想論文、というややこしいことになってます。いや、書いた当時の私の論文書きのスキルが低かったせいも多分にあるのですが。

 「交差の地」の方に、この論文をめぐるガルトと神話学者の接触がありますが、あの時既に島の暗殺者は仕事してしまっていたわけですな。

  ちなみに、論文を著者の死後「書き直せればよかったんだけど…」と編集が追記しつつ出版する、というスタイルは、マイクル・ヤングという社会学者の『メリトクラシー』という本の真似です。人がIQと努力で評価される階級社会(こういう階級社会を「メリトクラシー」という)を2034年の社会学者が振り返り、このような社会がいかにして成り立ってきたのか、そしてどうなっていくのかを分析する、一見論文調な、でもSF。暴動が起きそうだけれど、大したことにはならないだろう…そんな社会学者の予測で論文は締めくくられ、後には「著者は暴動の場で死んだので、この著作を訂正することができなかった」という編集者の注釈がついていて、予測が外れたことを暗に語る、というもの。いろんな意味で私の人生変えた著書でした。