魔の島のシニフィエ

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第二章 破壊神の片腕

3 ウドゥルグの力

「畏きウドゥルグの名において……」
 デューイは呪文を唱える。手は複雑な紋様を描く。シンボルの形を描くことによって力を引き出す魔法が、ロルンの暗黒魔法である。
(今、生き返らせてやる……!)
 犬の死体を前に、デューイはシンボルを描き終え、短く発動の言葉を唱える。術が成功すれば、死体はよみがえる。
(僕の命と引換えでもかまわない……奪って来た命を償うんだ!)
 が……。
 何も起きなかった。
 犬の死体は、半ば首のちぎれた無残な姿のまま、横たわっている。
 デューイは、繰り返した。
 シンボルを描き、詠唱し……。
 何度めかの失敗の後、デューイは思わず叫んだ。
「なぜだっ! 僕を救うんじゃなかったのか? ウドゥルグ……っ!」
 不意に。
 人の気配がした。
(だ、誰だ?)
 とっさに振り向こうとして、はっと気付く。
 身体が動かない。
 恐ろしいほどの力が、背後の侵入者から感じられる。その力に圧倒されたように、デューイは動けなくなっていた。
「私を呼んだか……」
 男の声が、頭の中で反響するような気がした。
 振り向くことのできないデューイに、声の主を確認するすべはない。だが、人ならぬ迫力とその言葉は……。
(う……ウドゥルグ?)
 ばかな、と思う。司祭たちはまだ、ウドゥルグが復活したとは言っていないではないか。それにウドゥルグが降臨すれば、この世は死と破壊に覆われるのではなかったのか?
 だがそんな疑いを、デューイの本能は拒絶していた。魂の奥底から理由もなく湧き上がって来る畏怖の念を、デューイはどうすることもできなかった。 
 背後の声は続く。
「死者をよみがえらせることは、我が意志ではない。魔術師よ、摂理を曲げる者どもに惑わされるな。そして、死を受け止める強さを持て」
 不意に。
 デューイを圧倒していた力が、すっと消える。
 振り向いた時、既に侵入者の姿はなかった。


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