守護獣の翼 5 めざめる翼
セイリンに礼を言って宿に戻ったところで、ユァンはふと気づいた。
「ウェイ、メイエイに買って帰るもの、どうするんだ?」
「そうだなあ、玉はちょっともう買う気になれないし……」
ちょっと困ったようにウェイはつぶやくが、あまり困り切った口調に聞こえない。
「ちゃんと考えなよ。帰って成人の儀になったら、結婚するんだろ?」
ユァンは何気なくそう言った。真影の「長」の伴侶となるのは「織師」か「耕人」の娘だが、その中でメイエイほどウェイに合う少女はいないと思っている。遅かれ早かれ、そうなるものだと思っていた。
「そうだなあ、でも……」
ウェイからは思ったほどの反応がない。見ると頭をかきつつ言い出しように迷っているといった風情だ。
「でも?」
「ほら、おまえだってさ、メイエイのこと……」
「忘れたな」
みなまで言わせず、ユァンはさえぎる。
なかったわけではない。
だが、ずっと二人のそばにいて、「翼」を広げてきた。誰が誰を見ているのか、悲しいほどにはっきりわかってしまう。ユァンがメイエイに抱いた恋心は、もう覚えてもいないほどに短命だった。
だが、この二人ならば、そばで見守っているのも悪くはないと思っていた。
「ほんとに?」
「何度も言わせるなよ。それに……俺は」
人間じゃないから。
うっかり口をすべらせかけて、ユァンは慌てて口をとざす。
「おまえは?」
「俺は……その……『盾』だから」
「盾」だから。
苦しまぎれに口にしたその一言は、意外にすっとなじむような感じがあった。「盾」は「盾」しか伴侶にできない……そう言うつもりだったが、ユァンは我知らず、普段思っていたことを口にのぼらせていた。
「だから、おまえ達を守るのが、俺の仕事なんだ」
「まあ……たしかに、おまえが守ってくれてるから、俺もメイエイも無茶できるんだけどな」
「それは、しなくていいんだけど」
ユァンは思わず苦笑を浮かべる。
実際には、ウェイはユァンの気持などとうにわかっていたはずだ。だが、ユァンが一度も言葉にせずに呑み込んだ思いに行き場を与えてくれようとしたのではないか。そうユァンは思った。
だが、心のどこかに晴れぬ思いはつきまとったままだ。
村へ、帰れるのだろうか。帰れたとしても、いつか人ならぬ姿をあらわし、ウェイ達のもとから去らねばならない日が来るのではなかろうか。
(人でいられなくても……せめてこいつらを見守っていられたら)
村を吹き抜ける風、降り注ぐ日の光、空にかかる虹。
そんなものに姿を変えて、村を、彼らを守っていく。
急に思いついたにしては、悪くはない考えだった。
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