8日目・汚染都市ゴモラ


「ガーライルっ…ピピン!」

 慌てたような少女の声とともに、ばたんと扉が開く。

 バーテンが顔を上げると、長い髪の少女と目が合った。

「…あ、ごめんなさい。こんなところにバーがあるなんて知らなくて…」

「いえ…」

 丁寧に挨拶する少女に、バーテンは微笑を返す。

 無理もない。とうの昔に滅びた汚染都市の地下深くにバーがあるなど、誰も予想だにしないだろう。

「せっかくだから、ワンショットいかがですか?」

「ありがとう…でも…仲間を探さないと」

「まあまあ」

 バーテンはミキシンググラスにリキュールを注ぎ、手早くステアする。半ば強引なバーテンに首をかしげる少女だったが、結局断りきれずに腰を下ろした。

 バーテンはカウンターにタンブラーを置く。淡い緑色をしたカクテル。ホットらしく、ほのかな湯気が立ち上る。

「pure…あなたのイメージで作ったカクテルです。…ああ、酒は汚染されていませんから、大丈夫ですよ」

 半ば押し切られるように、少女はグラスを手に取った。両手で持ち、こく、と飲み下す。

「…甘い…」

 はちみつのリキュールの甘味が口に広がり、焦る心を静めていく。

「落ち着きましたか?」

「…え、あ、はい」

 突然声をかけられて、少女は驚いたようだった。その様子に、バーテンはくすりと笑う。

「お仲間をお探しで?」

「…ええ。よくわからないけど…光る壁に吸い込まれてしまって…私、どうしたらいいか…」

 飲み終えたタンブラーをカウンターに置き、少女はそのままうつむく。

「落ち着いて、あたりをよく見てごらんなさい。あなたとお仲間の信頼が通じ合った時、道は開けるでしょう」

 謎めいた言葉。

「えっ…」

 少女は顔を上げた。

 そして…目を見張る。

 そこは元の場所…汚染都市ゴモラの地下通路だった。バーなどというもののあった痕跡すらなく、ただ光る壁だけが、彼女の前にあった。


Pure(リザ)

ベーレンイェーガー30ml
ライムシロップ30ml
ブルーキュラソー1tsp
60℃の湯。水割でも可。

  緑。甘い。アルコール控えめ、ロング
  ベーレンイェーガーは、はちみつのリキュール。ほとんどレモネード感覚で飲めます。

1997年「Phase」所収
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