その後オカルト研の二人は、貴志と学年主任の教諭からさんざん説教された後、部室を没収されるはこびとなった。
「ネットのアングラ系サイトで『無害な妖魔を呼ぶ方法』とやらが出回っていたらしい。彼らはそれを試すつもりだった」
貴志が圭一郎と征二郎に教えてくれた。
「装置を二個作って、教室のロッカーに仕掛けたあとで、部室でDVDを見ている間にオブジェが増殖し、あわててスイッチを切った時にはもう出られなくなっていたそうだ」
「それでゾンビだったのか……けど、見事に自爆した感じだよね」
「あんなに速く増えるとは思っていなかったみたいだ」
「だいたい、なんでそんなことをしたんだ?」
征二郎が問う。
「妖魔を見てみたかったのと、あとは、君たちが妖魔を退治するシーンも見たかったそうだ」
「見てないじゃん」
圭一郎が即座につっこむ。
「もうちょっとあのまま放置しておいてもよかったかも知れないな」
貴志の言葉に二人はうなずいた。
結局のところ、彼らは自分たちがくわだてたいたずらに引っ掛かり、当初の目的を果たせないまま、ただ周囲に迷惑をかけただけということになる。それはなんとも間の抜けた結果ではあったが、もっとも迷惑をかけられた身としては、もう少し困っていてほしかったと思うのも無理はない。
「けど、気になるな」
帰り道、圭一郎はふとつぶやく。
「どした?」
「妖魔を呼ぶ方法がネットで出回ってた、ってこと。いったい誰がどういうつもりでそんな情報を流したのか……」
「迷惑な奴だよな」
「それに」
圭一郎は付け加える。ひとたび言葉にすると、次々に気がかりな点が浮かんでくる気がした。
「僕たちの学校だけじゃなくて、別のところでも同じ事件が起きるかもしれない。今回は害のないタイプだったからよかったけど、人に危害を加えるような妖魔の呼び方が流れることだってありうる」
「なんでそんな情報が出回ったんだ?」
暢気に尋ねた征二郎に圭一郎は、思い当たることが一つもないのかと、いやみの一つも言いたい気分にかられたが、ぐっと抑える。
「この間、データベースの情報が洩れたってメールがあっただろ? たぶんそこから流れたんじゃないかな」
「あー、そういえばそんなこともあったっけ」
征二郎は素で忘れていたらしい。いつものこととはいえ、圭一郎は脱力する。
「そういえばパスワード、ちゃんと変えたんだろうな?」
「変えたよ……あ」
「なに?」
「変えたパスワード、忘れた」
「……」
ありがちすぎて、もはやつっこむ気も起きない。圭一郎は深々とため息をついた。
(はあ。もう放っておこう。情報が洩れるよりましだ)
圭一郎はそう思った。
それよりも、何者かが妖魔の情報を悪用しているという事実が気にかかる。それが単なる悪質ないたずらなのか、それともなんらかの意図があるのかはわからないが、圭一郎たち退魔師にとっては煩わしい事態になりそうだ。
しかも、これっきりかかわらずに済む問題ではない。
(そういう人が増えたりしたら、どうなるんだろう)
圭一郎は不安感をつのらせる。
戦う敵は妖魔だけではなくなっていくのかも知れない。
そんな漠然とした思いが、やがて予感となり、現実となっていくには、それから大して長い時間はかからなかった。
(第三話 終)