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第四話 鈴の退魔師

4 トリガー (下)

「つまり、私が妖魔出現のトリガーになっちゃったってことなのね」
 数日後、宝珠家の書庫前。
 宝珠兄弟の前で、凜はため息をつく。
 試験の日に現れた妖魔は、宝珠兄弟が調べていたムジナタイプだったという。人の感情をきっかけに出現する妖魔が、試験会場へ急ぐ凜の焦りに反応してしまったのである。
「なんか情けないな。退魔師ともあろうものが」
「でも退治できたし、大学にも無事受かったんだし、よかったじゃん」
 征二郎の気楽な言葉に、凜ははっとする。
 数少ない退魔師として、自分のいるところに現れた妖魔はすべて、自分が退治しなければならないと思っていた。
 だが、身近に退魔師はいないわけではないのだ。
 圭一郎も征二郎も、凜にとっては弟のような存在である。そのせいか、どうしても実際以上に子供に見てしまう。今までも、二人でやっと一人前でしかない駆け出しだとばかり思っていた。
 だが。
 この二人が自分を助けて妖魔を退治してくれた。
 思ったよりも頼りがいがあることを、凜は認めざるをえなかった。
 この子たち、けっこういい退魔師になれるかもね。
 そう思ったが、口には出さない。
「まあ、あんたたちも少しはやるようになったってことかしら」
 そう取りつくろってみせる。
「やだなあ。僕たちちゃんとやってますよ」
「ふふ、どうだかね。受験も終わったし、これからゆっくりあんたたちの仕事ぶり、評価してあげるから」
「はーい、お願いしまーす」
「き、厳しそう……」
 今一つ緊張感のない征二郎と、逆に頭を抱える圭一郎。二人をかわるがわる眺めて、凜は軽く笑い声を上げた。

(第四話 終)

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