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第五話 妖魔を護る者

1 奇妙な気配(下)

「ごめん」
 正門に向かって歩きながら、圭一郎がうなだれる。
「とりあえず被害出てないんだから、いいんじゃねえの?」
「そうだけど……」
 征二郎は宝珠を手に持ったままだったのに気づき、圭一郎に渡す。渡しながら、ふと思ったことを尋ねてみた。
「おまえさ、護宏と何かあった?」
「え?」
「普通妖魔のそばに人がいたら、人の心配するよな。けどさっき、おまえ護宏のこと、全然心配してなかったじゃん。なんか、らしくねえよ」
「……」
 圭一郎は宝珠を手に立ち止まる。言い当てられたという表情だ。
「圭一郎?」
「前から思ってたけど……気配が違うんだ」
「護宏の?」
 圭一郎は唇をかんでうなずく。その思いつめた表情からは、圭一郎がずっと抱え込んで悩んでいたのだということがわかる。
「まさか妖魔?」
「そうじゃない。そうじゃないけど……」
 圭一郎は頭を振る。
「なんだか、ほかの誰とも違ってて、どうしても気になるんだ」
「ほかの誰とも違ってて、気になる?」
 征二郎は、圭一郎の言葉を繰り返してみた。
 似たような言葉を、どこかで聞いたことがあったような気がする。あれはクラスメイトに悩みを打ち明けられた時だったか。
「それは……」
 思い出した。あの時は確か……。
 征二郎は思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「恋?」
 次の瞬間、頭部に衝撃を受けて征二郎はよろめく。圭一郎が拳を握り締めたまま、こちらをにらんでいた。
「ってえ、なんだよいきなり!」
「おまえは実の兄を変な趣味の持ち主にしたいのか?」
 頭をさする弟に、圭一郎は冷ややかに言い放つ。
「違うのかよー」
「当たり前だろう!」
 だが圭一郎は、その後すぐにうつむいて低く言い添えた。
「……妖魔じゃない。けど、時々なにか危険なものを感じてて……だから、妖魔をかばってるのを見たら放っておいちゃいけない気がしたんだ」
「……」
 征二郎は言葉が見つからなかった。
 圭一郎の感じていることは、征二郎にはよくわからない。だが、圭一郎がただならぬ危機感を、それも自分のクラスメイトに対して感じているのだということだけは理解できた。

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