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第五話 妖魔を護る者

2 裕美とプロジェクト(上)

「君たち、もしかして退魔師の宝珠君?」
 正門を出たところで二人は、大柄で髭を生やした男に突然呼び止められた。見たことのない顔に、二人は顔を見合わせる。
「そうですけど?」
 圭一郎が答えると、男は相好を崩した。
「初めまして。吉住といいます。メールは何度か送ったことがあったんだけど、覚えてるかなあ」
「……?」
 覚えのある名前だったが、どこで見かけたのかを二人が思い出すまで、少しの間があった。
 先に思い出したのは圭一郎である。
「妖魔データベースの管理者の吉住さん? フローレンス女子大学の」
「ええっ?」
 征二郎は男の顔をまじまじと見つめる。
「ず、ずいぶんごっつい女子大生なんですね」
「お、おい、そんなわけないだろ! 大学の先生だよきっと」
「あ、そうか」
 圭一郎に小声で言われて征二郎はやっと、女子大にいるのが女子大生とは限らないという単純な事実に思い当たる。
「あはは、そういう反応は初めてだなあ」
 吉住は身体を揺らして笑う。小声とはいえ筒抜けだったようだ。
「女子大生かあ。学生に話したら受けるなきっと」
「す、すみません、弟が失礼なことを」
 圭一郎があわてて頭を下げる。吉住はそれを手で止めるしぐさをした。
「いいっていいって。名前の読み方はよく間違われるしね、はい」
 二人はそれぞれに渡された名刺をのぞき込んだ。 「フローレンス女子大学人間社会関係学部 専任講師 吉住裕美」とあり、名前の下には「YOSHIZUMI Hiroyoshi」と書かれている。
「ヒロヨシかあ。ユミって読むんだと思ってた」
「僕はヒロミだとばかり……」
 どちらにせよ、間違えていたことにはかわりがない。
「うん、顔が見えなかったらそう読むのが普通だろうね」
 間違えられるのには慣れているらしく、二人のいくぶん失礼な言いようにも、吉住は笑顔でうなずいてみせる。
「今日は黎明館大学で研究会があったんで、君たちにも挨拶しておきたかったんだ。ちょっと頼みたいことがあってね。今少し話せるかな?」
 征二郎は空を見上げた。秋になって日が短くなってきているとはいえ、空はまだ明るい。
「はい、大丈夫です」
 征二郎よりも先に、時計を見ていた圭一郎が答えた。

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