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第五話 妖魔を護る者

3 はじめての捕食型 (下)

(征二郎!)
 圭一郎の目から見ても、征二郎が手を焼いていることは明白だった。だが、剣を取って戦っている征二郎に、圭一郎がしてやれることはない。
 その時正門の内側で動く人影があった。思わず視線が動き、人影をとらえる。
(……!)
 だいぶ薄暗くなっていたが、明かりに照らされて、顔がはっきりと見える。
 滝護宏だった。制服姿でまっすぐ正門に向けて走って来ている。
(まさか、あいつ……)
 夕方の一件が頭に浮かぶ。
 あの時のように退治を邪魔されたら、征二郎はおろか、隠れている生徒たちにも危害が及びかねない。
 圭一郎は全身を緊張させた。ただでさえ征二郎が捕食型の妖魔に苦戦しているのだ。これ以上事態が悪化してはまずい。
(どうしよう)
 攻めあぐねる征二郎と、駆け寄ってくる護宏。
 次になにをすべきか、圭一郎は判断に迷った。
 護宏がちらりと妖魔の方を見る。その時圭一郎と目が合った。
(!)
 圭一郎はどきりとした。
 が、それは一瞬のことだった。護宏はすぐに目をそらし、門柱にまっすぐ近づく。陰には何人かの生徒たちがいたが、護宏が歩み寄ったのはそのうちの誰かのようである。
 それきり、護宏が妖魔のほうにやって来る様子はない。
(今度は邪魔されないみたいだな)
 圭一郎は少しほっとする。護宏の気配は気になるが、とりあえず今は、そのことを考えずに済みそうだ。

 一瞬の隙を求めて妖魔に斬りかかるが、なかなか本体に刃が届かない。今のところは妖魔の側から攻撃をしかけて来ないため、一方的に征二郎が攻撃する形になっているが、いつまでもそれが続くとは思えなかった。
 反撃に転じられては、こちらが不利だ。まして剣が宝珠に戻ったところを狙われては、たまったものではない。
(早くしないと!)
 宝珠に戻るのを一瞬でも遅らせようという思いからか、剣を握る手に我知らず力がこもる。
 ふと 。
 斬り結んでいた触手の動きが、わずかに鈍った。
(!?)
 何が起きたのかはわからない。だがその一瞬を、征二郎は見逃さなかった。
「そこだっ!」
 触手が受け止めるより早く、征二郎の剣が一閃する。触手がばらりと地に落ち、溶けるように消えていく。続けざまに振った刃が、回転を続ける本体を斬り裂いた。
 確かな手ごたえとともに、本体が霧のように拡散して消えていく。いつもの消滅のパターンだ。
 征二郎はふうっと息をつく。ほぼ同時に、征二郎の手の中の剣がふっと軽くなった。剣がその形を失い、元の宝珠に戻ったのである。
 ぎりぎりで間に合った。
 元の形に戻った宝珠を手に、征二郎は振り向く。
 征二郎の視線に答えるように、圭一郎がうなずいた。

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