二日後。
真影村の広場を、セイリンは見回す。晴れ渡った秋空の下、収穫に忙しい「耕人」が行き交う。片隅では小さい子供が数人、楽しげな声を上げて遊んでいた。
門の方から広場へと至る道を歩いて来る人影は、ユァンのものだ。玉輝に戻るために、村の門を開けてもらうことになっている。セイリンの姿を認めて幾分足を早めたが、広場に入ったあたりでその足が止まる。
「あー、ユァンだー」
子供達がユァンのもとへ駆け寄っている。
「ははぁ、捕まったな」
セイリンの傍らで、ウェイがおかしそうにつぶやいた。
「どうしたんだ?」
「まあ、見ていればわかりますよ」
ウェイの言葉に首をひねりつつ、セイリンは子供に囲まれたユァンを眺めやる。
「ユァン、はね見せてー」
「はねー」
口々にねだる子供達に、ユァンは苦笑を浮かべた。
次の瞬間。
広場がぱっと明るくなったような気がして、セイリンは目を見張る。
ユァンの背から、虹色の光が放たれる。それはまるで背に生えた一対の翼のように、日の光を受けてきらめきながら、空に向かって大きく広がっていった。
子供達がわあ、と歓声を上げる。
「あれは……」
「ユァンの『翼』ですよ」
ウェイが答える。
「あの子達は、ユァンのあの姿を当たり前のように思っています。あいつがあいつでいる以上、人か魔獣かなんてことはそんなに重大じゃない……この村は、そういう村なんです」
行き交う村人も、ユァンの姿に驚いた様子はない。歓声を上げる子供達と「翼」を広げたユァンに、あたたかな視線を送りつつ通り過ぎて行く。
人と魔獣がなごやかに共存する村。
レンユウをこの村につれて来ようとしたことは、間違ってはいなかったのだと、セイリンは思う。結果としてかなわなかったが、真影は彼女の居場所となるべき村だった。
「ここにあの子を連れて来たかった……」
ふともらしたつぶやきに、ウェイは答える。
「連れて来たじゃないですか」
「えっ?」
「魔獣は形を取ったり散ったりしながら、ずっと存在し続けます。もう人の姿ではないけれど、セイリンさんと一緒に来た彼女は、この空の……風のどこかにいるんですよ」
「……」
この空のどこかに、かつてレンユウという少女の姿をしていた存在がいる。そう思うとどこかほっとするような、それでいて泣き出したいような、なんとも言えない気持になった。
セイリンは空を見上げた。ユァンの「翼」が光の柱のように伸び、雲一つない秋の空にとけ込んでいる。虹色のきらめきの向こうに透けて見える秋の空は、どこまでも澄みきっていた。
(終)
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