夢魔

第9章 絶望の淵

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「ひどい……どうしてこんな…」
 透の隣で、響子がやりきれない調子で呟いた。
 あちこちからすすり泣きが聞こえる。
 桜川淳弥の告別式は、彼の家に近い寺で行われた。妻子のいない彼の喪主は兄がつとめている。だが親族以外の参列者のほとんどは夢使いで占められていた。
温厚な性格の彼は皆に慕われていただけに、列席者の表情は沈欝である。
 透は昨夜から一睡もしていない。通夜のあとで一人になるのが辛く、同じ思い の夢使い仲間数人と飲みに出かけて語り明かしたからだ。寝不足のはずなのに妙に頭が冴えきっている。
 読経を聞きながら彼は考え事をしていた。
 退院の前日、彼のもとを訪れた桜川は、ある程度こうなることを予想していたのではないだろうか。
 夢使いの依頼者に関する資料は、事前に担当する夢使いの手に入る。したがって桜川が透の見舞いにやってきた時点で既に、その日の依頼人が異常なまでに衰弱の仕方が激しかったことがわかっていたはずだ。
――君が引き受けてくれて嬉しいよ。
 透はそんな桜川の言葉を思い出していた。
(あれは先生の遺言だったんだろうか……)
 ぼんやりと、他人ごとのように彼は考えた。
 悲しいはずなのに、涙も浮かばない。
 あまりにも、色々なことがありすぎた。
 環と千秋の失踪から始まった、様々な出来事。
 それらすべてを受け止めてきた透の心の疲れは限界に達している。正直にいってもう、なにも考えたくないし、なにも感じたくなかった。

 そして、その晩のことである。


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